新任・若手教授 講演会

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2018.11.03 17:00

第5回工学部新任・若手教授による講演会(報告)

工学部・工学部同窓会共催の「第5回工学部新任・若手教授による講演会~私の研究が目指すもの~」が「市大ホームカミングデー」の特別企画として11月3日15時から16時20分まで工学部G棟1階中講義室で開催された。参加者は同窓会員30名。

講演会は吉田稔行事担当副会長(機械・昭和52年卒)の司会で進行した。

講演に先立ち、工学研究科長の長崎健先生より、工学研究科教育研究センター(機能創成、生命工学、都市科学の3部門)の設置による研究・教育の活性化と外部への発信などの取組みが報告されるとともに、学部生向け奨学金、後期博士課程学生修学援助、博士課程学生海外留学支援金などの同窓会の援助に対して謝意が述べられた。

続いて、2017年4月に電子情報系専攻の教授として着任された林和則先生により「式が未知数より少ない連立一次方程式の解き方とその応用」と題した講演が行われた。

林先生は、2002年3月大阪大学大学院工学研究科博士後期課程修了(研究分野は通信工学・無線通信)、2002年4月より京都大学大学院情報学研究科助手、2007年助教、2009年より准教授として数理工学とくに信号処理の研究に取り組んでこられました。市大では統計的信号処理、通信工学、データ解析の分野の研究をされておられます。

米国の情報科学の権威者とフィールズ賞を受賞した天才的な数学者が2006年に共同で行ったMRI(Magnetic Resonance Imaging、磁気共鳴画像法)画像の鮮明化に関する研究をきっかけに、MRIや通信分野に限らず多くの分野で爆発的に研究され導入されてきている「圧縮センシング」技術の基本的な考え方が解説された。

興味のある、n個の成分xi(i=1~n)を持つ未知変数xは直接観測できないが、未知変数xに既知の観測行列Aを乗算したyAxが観測可能であれば(線形観測)、観測結果yと観測行列Aの情報から未知ベクトルxが推定(再構成)できる。これは通常の連立一次方程式の解法。

さて、ゼロ成分が多く含まれることがわかっているスパース(疎)な未知変数xに対しては、非ゼロ成分の数kより多いm回(m>k)の観測を行えば、その数が未知数の数nより少なくても(m<n)、yAxの制約のもとでxiの絶対値の和を最小にするような最適化問題を計算機で解くことにより未知変数xが再構成できる、すなわち、ただ一つの「真の解」が求められる。評価関数としてxiの2乗和の平方根ではなく、xiの絶対値の和を用いるのがポイント。未知数の数よりも少ない(圧縮された)観測(センシング)で再構成できるので「圧縮センシング」と呼ばれている。また、ディジタル通信の送信信号のように、xが+1、−1の離散値で構成されている場合も、xiに−1または+1を加えることによりスパースな変数に変形できるので圧縮センシングが可能であると解説された。

その後、応用例として、通信機能や計算能力を持つセンサーノードを観測対象の領域に多数配置し、それらによって集められたデータから所望の情報を抽出する無線センサーネットワークにおいても、離散フーリエ変換、離散コサイン変換、waveletなど可逆な変換行列を用いることにより、変換領域で表現された観測データがスパースであれば圧縮センシングが適用でき、データ収集時間や計算時間が大幅に短縮できること、また、ネットワークトモグラフィにおけるリンク遅延やリンクロス確率の推定、さらにはIoT(Internet of Things、モノのインターネット)環境のデータ収集における圧縮センシングの導入例などが紹介された。

講演の後、画像処理への適用や解の一義性について若干の質疑応答がなされ、黒山泰弘同窓会長(土木・昭和50年卒)より、圧縮センシングが通信工学の分野に限らず多方面の分野に適用可能ということですので、学生への指導も含めて今後ますます研究が発展されることを期待していますとの挨拶があり、閉会した。

東 恒雄(機械・昭和41年卒・理事)

  

  

撮影 斎藤壽士 ・ 吉田稔  (副会長)

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